【やさしく解説】認知症と成長ホルモンの密接な関係とは?〜成長ホルモンは認知症予防のカギとなるのか?
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1. はじめに
「最近、物忘れが増えた」「名前が出てこない」――そんな悩みを抱えていませんか?
多くの人は「年だから仕方ない」と考えがちですが、実はその背景にはホルモンの影響が隠れていることがあります。
そのホルモンの名前は「成長ホルモン(GH)」。
子どもの成長に関係するホルモンというイメージがありますが、大人になってからも体や脳にとって重要な役割を果たしています。そして、年齢を重ねるとともにこのホルモンが減ることで、体の衰えだけでなく、認知症のリスクにも関係してくるのです。
本記事では、成長ホルモンと認知症の意外な関係をやさしく解説し、さらに日常生活でできる予防策まで紹介します。
2. 成長ホルモンの基本知識
成長ホルモン(GH)は脳の下垂体から分泌されるホルモンで、筋肉や骨をつくり、代謝を調整する役割を持っています。しかし、その働きはそれだけにとどまりません。
実は、成長ホルモンは脳の健康にも深く関わっています。IGF-1(インスリン様成長因子)を介して神経細胞の保護や再生を助けるため、記憶や学習能力にも影響を与えます。つまり、成長ホルモンは「体をつくるだけでなく、脳を守るホルモン」なのです。
3. 高齢で減る「成長ホルモン」の秘密
成長ホルモンは加齢とともに減少します。20歳をピークに分泌量は減り始め、60歳になるころには10代の約3割程度しか分泌されません。この現象は「ソマトパウス」と呼ばれます。
この減少が引き起こすのは、筋肉量の低下や脂肪の増加、骨粗鬆症といった身体的な変化だけではありません。脳においても、神経細胞の新生が減少し、記憶力や認知機能の低下につながります。
4. 成長ホルモンと脳・認知症の深い関係
なぜ成長ホルモンの減少が認知症に関係するのか?
答えは「海馬」にあります。海馬は記憶を司る脳の重要な部位ですが、ここで神経細胞が新しく生まれるためには、成長ホルモンやIGF-1が必要です。
成長ホルモンが減少すると、この新生が妨げられ、記憶力が低下するリスクが高まります。さらに、IGF-1はアルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβの毒性を軽減する働きも持っていることが研究で示されています。
5. 実際の研究データから見る効果
いくつかの研究では、成長ホルモンやその分泌を促すホルモン(GHRH)の投与によって、認知機能が改善することが示されています。
アメリカで行われた研究(JAMA Neurology, 2012)では、GHRHを20週間投与したところ、高齢者や軽度認知障害を持つ人々の記憶力や実行機能が改善しました。また、動物実験でもIGF-1の投与によって海馬の神経新生が促進され、学習能力が向上したことが報告されています。
こうした結果から、成長ホルモンは「脳を守るホルモン」といえるでしょう。
6. 成長ホルモンが減るとこんなリスクが!
成長ホルモンの減少によって、体だけでなく心や脳にも影響が出ます。
- 記憶力や集中力の低下
- 気分の落ち込み、うつ症状
- 睡眠の質の悪化
- 認知症リスクの上昇
こうした変化を「年齢のせい」と片付けるのではなく、ホルモンとの関係を意識することが大切です。
7. 昔の「ホルモン注射」とアルツハイマーの話
ここで、少し怖い話を紹介します。1950~80年代、成長ホルモンは亡くなった人の脳から抽出されていました。この治療を受けた一部の患者が、後年、若くして認知症を発症したのです。原因は、抽出したホルモンにアミロイドβの“種”が含まれていたためとされています。
この製法は現在では完全に禁止され、安全な合成ホルモンしか使われていません。ですので、この事例はあくまで「過去の特殊なケース」です。
8. 高齢者へのGH補充療法、現状と課題
「じゃあ、成長ホルモンを打てば認知症が防げるの?」と思うかもしれません。しかし、現時点ではそう単純な話ではありません。
GH補充療法は、下垂体の病気などで明確なホルモン不足がある場合に限って行われます。さらに、長期的な安全性や認知症予防効果はまだ十分に証明されていません。
とはいえ、GHRHを使った薬やGH分泌を促すペプチドに関する研究は進んでおり、将来的には認知症予防の一つの選択肢になる可能性があります。
9. 自然に成長ホルモンを増やす生活習慣
薬や注射に頼らなくても、日常生活で成長ホルモンを増やすことはできます。
運動
- スクワットや軽い筋トレ(10回×3セット)
- 速歩きウォーキング(1日20分)
- 階段を積極的に使う
食事
- タンパク質(魚・肉・卵・豆類)をしっかり
- アルギニンを含む食材(ナッツ・ゴマ・大豆)
- 血糖値を急上昇させない低GI食品
睡眠
- 夜10時~深夜2時がゴールデンタイム
- 深い眠りがGH分泌を促す
ストレス対策
- 深呼吸や瞑想
- 趣味や友人との交流
こうした習慣を続けることで、ホルモン分泌をサポートし、認知症予防につなげることができます。
10. 生活習慣+脳トレで認知症を防ぐ!
成長ホルモンを増やす生活習慣に加えて、脳を使うことも重要です。読書やパズル、会話など、日常で「少し頭を使う時間」を意識しましょう。体と頭の両方を鍛えることで、認知症予防効果が高まります。
11. おわりに
成長ホルモンは、私たちが想像する以上に脳と深く関わっています。年齢とともに減少してしまうのは自然なことですが、その影響を完全に避けることはできません。しかし、適度な運動やバランスのとれた食事、十分な睡眠、そしてストレスの管理によって、このホルモンの分泌をサポートすることは可能です。
現時点では、成長ホルモンの補充療法を認知症予防目的で広く使うことはできませんが、研究は進んでおり、将来的には新たな治療の選択肢となるかもしれません。それまでは、日々の生活習慣を見直すことが、最も現実的で効果的な方法といえるでしょう。
認知症予防は「早すぎる」ということはありません。今日からできることを少しずつ始めて、将来の自分の脳を守りましょう。